ラーメン屋が閉店した話

馴染みのラーメン屋でお気に入りの一杯をいただくのが私の楽しみなのだが、最近その店がいつ行ってもやっていない。

その店は昭和情緒が色濃く残る路地裏にたたずんでいる。地元の人々を胃袋から応援してくれる、そんな気概を感じさせる風情がその店にはある。

「はーい、いらっしゃい」

どこか気だるげな声で店のお母さんが迎えてくれる。店はお母さんと息子さんの二人で営んでいる。

中華そばを頼むとお母さんは厨房の息子さんに「中華一つねー」と知らせる。息子さんは調理、お母さんは接客という具合だ。

中華そばが出てくる。絵に描いたような昭和の中華そばがそこにはある。醤油ベースのちょっとしょっぱいスープに、黄金色の麺。メンマにかまぼこ、チャーシュー、刻みネギ。

すばらしい。おそらくこの店ができた当初からの変わらぬスタイル。先代から受け継いだ伝統である。

そんなお気に入りの店だが、どうやら最近店じまいをしたらしい。まさかと思ったが、いつ脚を運んでも店は閉店のまま、寂れた路地裏と同化してしまったかのように活気なくそこに建っている。

真っ先の浮かんだのは店のお母さんの事だ。どこか気だるげなお母さんは、店の歴史そのものだ。

「お母さんに何かあったかもしれない」

そんなことを感じてしまった。多分だが、あの店は再開することはないような気がした。いつもと変わらぬ中華そばと、「おおきに」と言ってくれるお母さんがいてくれればそれでよかった。それが叶わなくなってしまったのはとても残念だった。